ゴジラ-1.0

こりゃあ今年観た中でワースト作品ですかね。
実写版のゴジラは映画館で観ることに決めているので期待せずに観にいきましたが、やはりというかしんどいくらい「情けない」映画でした。題材は良いんですよ、戦後間もない日本を舞台にしてゴジラをやるっていう発想は。山崎貴は昭和の「街並み」をCG技術で作るのに定評のある人なので、背景美術も悪くないです。ゴジラの造形も好きな部類ですし、街の破壊描写も観客の期待に応えるレベルになってます。個人的に1番良いと思ったのはゴジラの防御力がへなちょこな点で、機関銃で撃たれれば普通に痛そうにしますし、爆弾で攻撃されれば皮膚がただれるくらいダメージを受けます。そしてそれを上回るスピードで「回復」します。今回のゴジラは並の攻撃程度はすぐに治してしまうくらいの再生力を有しており、治癒する際の、細胞が再構成されていく描写の部分は「おっおっ」となりました。
でもそんだけ。
あとは全然駄目です。観に来たこっちが情けなくなるくらい人間ドラマとか脚本に面白みがなく、突然大声で感情的にしゃべる演技とか、あらゆる事象すべてを台詞で説明してしまう脚本とか、戦争反対を標榜してるくせに「戦争のケリをつける」ことに拘る主人公像の意味のわからなさとか、はっきり言って酷いです。何回「やったか!」って言うんだよ。やってねえよ。わかんだろ。「作戦に関わった人が誰一人死なないようにする」っていう作り手が自ら課した縛りのせいで最終段階の戦いにおける緊張感は薄いですし、なにより科学者一人が立案した作戦をそのまま採用するって変でしょ。もっと検討すべきだし、失敗する可能性を考えて第二、第三の作戦とか補助を用意して周りに周知しとけよ。ていうかそもそも、日本政府やアメリカがゴジラの存在を認知してるにも関わらず「混乱を避けるため隠匿し、介入を避ける」ってどういう理屈なの? だから民間人のみで対処しようとはならないって。その他、人物同士が和解する過程が説明不足だし、頭が悪く、空気の読めない台詞だらけ、あとあの人を生き残らせるのは作劇的に私は無能ですって言ってるようなものでしょ。
笑えない。観ていて自分が情けない。
終わり方もさあ、そりゃ復活する可能性はあるでしょうよ。でもさ、そんなことは私でさえ観ながら想像できるんだって。やってほしいのは、見せてほしいのはその先なのよ。あのボロボロの肉塊が再生して見たことのない異形のゴジラが登場、見た目も攻撃方法も様変わりした新しいゴジラをいかに倒すかってところまで行ってくれよ。
巷では結構高評価なようですが、私は期待せず観に行って、期待以上にずっこけました。ダーメだこりゃ。

11月4日追記
なんでこんなにこの映画が嫌なのか、昨日より言語化出来そうなので追記。
この映画全体のプロットは戦争と震災から市井の人々の力を合わせて立ち直ろうってもので、テーマ的にもそれは同様。それ自体は良い。気持ち悪いのは戦争反対を掲げつつ、軍隊を賛美もしている点で、それはダブルバインドどころかただ「どちらの立場にも良い顔をしたい」という無思想、無批判、無節操からくるものだ。そのダシにゴジラが使われているせいで、位置付け的には、戦争で負けた、あるいは震災で被害を受けた借りを返すために用意された「悪役キャラ」以上のものになっていない。主人公が特攻出来なかったなら、本当に戦争に反対しているなら、最後の作戦で戦闘機に乗れば軸がブレるとは考えなかったのだろうか。最後の作戦で女性の登場人物は後方に追いやられ、男達だけで盛り上がってる光景は「震災」よりも「敗戦」のコンプレックスを映画内で晴らそうということだろうし。
そういう浅はかでなんの信念もない人たちに「ゴジラ」を使われることが何よりも私は嫌だった。大事なものを汚されるような嫌悪感がすごかった。
ゴジラがかっこよければそれで良い、その気持ちもわからないでは無い。でも一方で、そういう安易な方向に流されていくのはすごく恐いことでもあって、このなんの味もしない、しかしよく見てみると作り手の事勿れな主義思想だけはたっぷり残ってるゴジラを評価してしまえば、この先も似たような低きに流れる作品ばかり作られる可能性すら感じて、全く建設的ではないと思うのだ。
私がこの映画を観ていて「情けない」と感じたのはつまりそういうことなのだ。