『出会って4光年で合体』読んだ

ポッドキャスト番組で紹介されているのを聴いて読んでみたのだけど、まあこりゃすごいです。「エロ漫画」という形式を使いながら、この界隈でしか成し得ない物語を、ビジュアルを、「SF」として成立させています。そこにはジャンルに対してのある種「矜持」みたいなものがあって、タイトルの色物っぽさ(というか一発ネタですね)に反して、どこまでもどこまでも真剣に”物語を伝えよう”とする想いを感じました。

にしても文字が多いですねー、この漫画。もう漫画というよりもグラフィックノベルと言った方がしっくりくるレベル。しかも一文ごとに相当な知識と設定が詰めこまれていて、分量も400ページ近くあるため読むのに時間がかかります。そしてそのかけた時間分だけラストの「合体」がカタルシスに満ちたものになるというね……。その他にも吹き出しやコマ割りにも様々な工夫が凝らされており、「作者いったい何者だよ」と思いながら読みました。

絵柄はヒロインである「くえん」の可愛さを際立たせるために、彼女以外の存在をすべて若干不細工にしています。てかこれは汚いおっさん×美少女というエロ漫画あるあるを”あえて”やってるんだろうとも思います。「醜男=心も汚い」という認識をどうあっても回避すべく主役の立花はやとをひたすら「善人」として描いてましたし。

ジャンルはSFであり、エロです。民族伝承とか宇宙SFとか巨大企業とか陰謀論とか異種婚姻譚とか青春群像とか結構色んな要素を盛り込んでいますが究極的にはエロSF。モチーフとなるそれぞれが後半になるにつれてちゃんと機能していくので読み解きがいもあります。「出会って~秒で合体」のパロディ以外にも「~しないと出られない部屋」のネタもぶち込んできてますし、なんつうか「エロ漫画」というジャンルで出来ることの限界を引き上げようとする姿勢が見え隠れしています。

ピンチョンとかイーガンっぽい読み心地もあったり、2000年代のラノベとかエロゲーリバイバル感(『君の名は』的な空気感と言えば伝わるでしょうか)もあるので、刺さる人にはめっちゃ刺さると思います。

うーん、こりゃすごいや。ある意味奇書ですなこれは。

『The Last of Us Part II Remastered』クリアした

『ラストオブアス』シリーズはハードが変わるたびに、そしてリマスター版が出るたびにやってまして、今回プレイしたこの版は『ラストオブアスPart II』のリマスター版なのだ。

 

つうわけでn回目のプレイですが、ひと通り終わりましたのでレビューです。なんか書いていたらやたらと長くなってしまったな……。好きな作品のこととなると饒舌になるのはオタクのサガか。

 

んで、まずは本編をひと通りプレイ。発売から4年経つゲームですが、やはりゲーム部分におけるアクションの作り込みが凄まじく、不自然なモーションはほぼありません。ハードがPS5に移行したことでグラフィックはさらに向上。人物も背景も美しいです。あとコントローラーが最新のものに変わったことで、振動がさらにダイレクトに、繊細に伝わるようになっており、臨場感は増し増しです。

 

ストーリーに関しては発売当初賛否を巻き起こしましたが、個人的には肯定派です。いや、というか肯定もなにも、前作の"続き"として、エリーを主人公にするのなら"彼"があのような運命を辿るのはむしろ当然なので、そもそもその点はあまり問題だと思っていません。アビーというキャラクターにヘイトが集まることも、制作サイドは企画の時点で大方予想していたようですし。ただ、「もし自分が続編を作るなら」という妄想をしたこともあって、例えばエリーとアビーを操作する順番を変えたりとか、ふたりの勢力とは無関係な第三者の視点から同行を見つめるとか、もっと細かい点でも「ここはもっと短くしていい、もっと丁寧に描いた方がいい」と思う場面は正直あります。その上で、これを「完成系」として世に出したのは、ゲームを作る上で、私には想像もできないような苦労がたくさんあった結果でしょうからこれが正しい続編なのだとは思ってます。

 

本作の開発の模様を追った2時間のドキュメンタリー映像『「Grounded II: Making The Last of Us Part II」』(YouTubeでも視聴可能)では、ムービーシーンを撮影する様子、ゲーム部分をいかにスムーズな流れに見せるか、難易度の調整など、その裏側を色々見れて興味深いです。なにしろ試写会のムービーがどれだけ重要なのか、あるいはディレクターであるニール・ドラッグマンがどう指揮を取っていたのか、脚本家の苦悩といった、ゲームをやっただけでは知り得ない情報がてんこ盛りなので。中でも発売が2020年のコロナ禍と重なってしまったことに加えて、内容に不満だった人から殺害予告まで届いた状況までしっかりと映像に組み込んでおり、それらと向き合う制作者たちの姿は胸を打ちます。

 

そしてこのリマスター版では、その膨大なムービーシーン全てにニール・ドラッグマンおよび演者たちのオーディオコメンタリーが付いていて、日本語字幕で聞けるようにもなっているという豪華な仕様となっています。シーンごとにどのような想いを込め、どこが難しかったのか。どの部分が気に入っているのかなどを解説しており、ファンとしては満足度高めの追加コンテンツでした。てかレブって元々死ぬ予定だったんだ。それが製作の過程で変更になったんだと。こういう裏話もいいですねえ。

 

音声解説を聞いていて感じたのは、ニール・ドラッグマンがこのゲームに込めた想いでして、どのキャラクターにも「大切な人」がおり、その誰かのために戦っているのだということがわかります。そこにはそれぞれの愛があり、しかし同時にその執着が憎しみを生み、報復は報復を呼び、結果として大きな代償を払うこととなる。私はラストオブアスの映画的な側面ーー映像作家であるニール・ドラッグマンのことを信頼していて、特に台詞よりも「目線」や「仕草」や「象徴的なシンボル」や「繰り返し」や「反転」によってテーマを語る巧さを気に入っています。そのことを、この音声解説で改めて実感した気がしました。全部で5〜6時間あるので、観終わるのにまあまあかかるけれど、「ゲームのオーディオコメンタリー」って特典自体が珍しいし、それだけムービーに自信があったのだろうな感じます。やはりラスアスは、"観る"ことに特化した作品だなあ。

そこには、"人間"を描くことで、ゲームというメディアをさらに一段階上の文化へと押し上げようとするドラッグマンの理想も垣間見え、そういうところが私の心をグッと掴んでくる。ただね、こうしてムービーシーンだけひたすら観てると、思った以上に「感染者」が出てくるシーンが少なく感じたので、もっともっと感染者が登場するシーンを増やしていれば、否定的な意見の人の気持ちも和らいだのではないかと思うんですよねえ(関係ないって)。

 

その他「新しい”未公開ステージ”とその解説」では本編では諸事情により組み込むことが出来なかったステージを実際にプレイできるようになっており、ここでも音声解説とともに制作者の考えを知ることができる。こういう追加コンテンツは、ある程度売れた作品のみができることなので、「プレイできるメイキング」として新しさがあり、実際すごく良かった。

 

さて、おそらくこのリマスター版で特に目玉となる追加要素は「NO RETURN」と言われるアクションに重きを置いたモードだろう。エリーをはじめとする本編で登場した様々なキャラクターを操作しながらそれぞれのステージを攻略し、最後のボス戦を目指すこのモードは、さながら「ラスアス版不思議のダンジョン」といったところ。タイトルどおりやり直しは効かず、一度死んだらそれまで集めたアイテム全てが失われ、引き継がれる要素は何一つない。敵の猛攻に耐え、その場その場で臨機応変に戦術を変え立ち回ることが要求されるため、本編をクリアしたあとでないと攻略は難しいだろう。というか私にはかなり難しかった。ひと通りプレイして全てのキャラを出現させ、まずはブローターを倒すまでは出来たのでとりあえず満足したのだけど、それまでいったい何度死んだことか。でもハマる。相当ハマります。本編とは違ったアクションをせざるおえなくなるので緊張感、やりごたえがすごく、アドレナリン出まくってるのを感じながら遊びました。

 

「菌」が蔓延し、荒廃してから何年も経った世界観、「感染者」たちの恐ろしくグロテスクで美しいデザイン、それらに立ち向かいながら旅をする臨場感。手を抜くことなく、批判されることがわかっていながら製作されたこのゲームには作り手としての矜持がある。

 

私が当時このゲームをクリアしたとき思ったのは、後年になって評価されるタイプのゲームだろうなあということで、プレイを終えたばかりの人(プレイしないで評価や動画のみで悪口を言ってる人もたくさんいた気がするけど)からはヘイトが集まりすぎて、まともな評価はなかなかされにくい気がしていた。2024年現在、このゲームを再びじっくりやってみると、「憎しみの連鎖」というテーマは、現在の世界情勢を鑑みて、より重みを増しているように思える。制作者はゲームを通して世界と向き合い、私たちプレイヤーにも問いかけているのだ。現実の在り方について。語りかける声が聞こえるだろう。「現実は常に"グレー"なのだ」というその声が。

だからこのゲームは心に響くのだ。

漫画が好きで、宇宙開発が好きで、恐竜が好きなエリー。そして彼女と表裏一体の存在であるアビー。彼女たちが旅を通して何を失い、何を"得た"のか。私たちはこの物語から何を"受け取る"のか、愛と憎しみについて語り切ったこのゲームは間違いなく後世に語り継がれるべき名作だ。

 

この『ラストオブアスPart2』を元に製作されるドラマ版はどんな作品になるのだろう。楽しみだ。

今年面白かったテレビ番組

1位.『水曜日のダウンタウン』「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説 第2弾」
水ダウは毎回色んな面白い企画をやってて好きなのだけど、中でもこの名探偵津田回は2回目にも関わらずすごく楽しかった。定期的にやってほしい。
2位.『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン13
コンビ対決回。はっきり言ってかなり好き。というかそもそも嫌いな芸人がいない状態だし、それぞれ邪魔し合うことがないので気楽に観ていられる。フットボールアワーは後藤のツッコミだけでなく、岩尾も良い具合に作用してるし、ニューヨークは嶋佐がオールマイティに動けるしちゃんと面白い。屋敷はいつもの屋敷。ナチュラルなツッコミが気持ちいい。井口ははっきり言うことが多く良い具合に機能することもあれば逆に空気が固まることもあったような。ランジャタイも予想通り国崎がおバカ。攻撃力高いけど国崎ワールド過ぎて付いていけてないこともよくあった。EXITはすべってたけど松ちゃん視点に立つと逆におもろいなあと思いながら見てました。総じて満足度の高い回。コンビ対決だと最終的に4人は残るから場が膠着しづらいのが一番の長所だと思う。あと今回は下ネタや汚物、暴力に頼ることが少なくてそこもよかった。最後の盛り上がりは少なかったけど。
3位.『トークサバイバー!』シーズン2
シーズン2は前期に比べてシチュエーションがより豊富になっており、色んな芸人の見せ場が用意されているように思った。若手芸人も多数出ていて良かったし、なにより大吾の頑張りが凄かった。
一番好きなトークはランジャタイ国崎の大吾と初めて飲みに行ったときの話。前にも聞いたことあるけど、話の持って行き方が上手すぎて笑えた笑えた。
4位.『あなたの知らない卑語の歴史』
ニコラス・ケイジが司会進行を務める海外の番組。
ほんとはみんな「ファック!」って言いたいんだね。
5位.『プロフェッショナル 仕事の流儀 ジブリ宮崎駿の2399日』
君たちはどう生きるか』の制作過程かと思ったら、宮崎駿から高畑勲への、敬愛を超えた強い情愛を見せられる77分間だった。最高。編集も音楽やアニメのカットアップを多用し力が入っててかっこいいやら面白いやら。
6位.『M-1グランプリ2023』
令和ロマンがずっと楽しそうだったなあ。好みで言えばヤーレンズかしら。今年は一年通してぜんぜんお笑いを追いかけてなくて、なんかあっという間に時代が変わっていくなあと感じる。
7位.『ダウンタウンガキの使いやあらへんで!』七変化ランジャタイ回
国崎狂っていて、正真正銘の芸人かが分かるやべえ回。いやすごかった。

今年楽しんだラジオ・Podcastベスト5

1位.『オールナイトニッポンPODCAST アンガールズのジャンピン』
田中と山根、アンガールズの二人がお届けするポッドキャスト番組。オールナイトニッポンポッドキャスト版で、毎週1時間くらいの長さで行っている。基本的には田中が何かに対して猛り、それに対して山根が熱くもならず冷めた感じにもならずに返答。その会話のやり取りがそれだけで超面白い。コーナーやハガキ職人の質も高く、特にこの番組では良い意味で芸人っぽくない山根の良さがよく出ている。2年くらいやってるけど、相変わらず楽しませてもらった。

2位.『THE SIGN PODCAST
主に田中宗一郎が主となって色んなカルチャーについて3時間くらいみっちりトークする番組。内容が濃く、どなたもその作品・メディアに対しかなり深いレベルで話せる人ばかり。その上で田中宗一郎の質問力や進行力が異常に高いので、全く飽きることなく時間が過ぎていく。有用すぎてあまり人に教えたくないくらいに。

3位.『あのと粗品の電電電話』
タイトル通り、あのちゃんと粗品が15分くらい電話形式で話す番組。ただそれだけなのにこんなに面白いのはどういうことだ。才能ある二人から繰り出される会話のキャッチボールは、変化球だらけなのにそれでしっかり”成立”してしまってる。

4位.『生活と映画』
映画・音楽ライターの木津毅が友人の逢坂文哉と映画について話す番組。取り扱う作品においても、映画批評についても参考になるものばかり。大変お世話になりました。

5位.『アフター6ジャンクショ』
途中から時間帯が変更になりタイトルは「2」が付けられたけど、内容はほぼ変わらず相変わらず面白い。取り扱うカルチャーが王道のものもあれば、そこ行く!?って変わったものも多く、カルチャーを伝える番組として今年もすごく参考になりました。

今年ハマった音楽ベスト5

1位.スフィアン・スティーヴンス『Javelin(ジャベリン)』
スフィアン・スティーヴンスは結構むかしから好きなアーティストで、新譜が出るたびに大体聴いてはいて、今年出たこの『ジャベリン』は2005年に出た『イリノイ』を髣髴させるような祝祭的なムードに満ちたアルバム。もちろんスフィアンなので、悲しみとかナイーブさもあるのだけど、それも含めて優しく包み込みながら前を見据えるような、そんな荘厳さを感じたんだよね。今年聴いた中で一番好きなアルバムです。

youtu.be

2位.cero『 e o』
ceroの新譜。前作から何気に5年くらいは経ってて時間が流れる速さを感じてしまう。そしてこのアルバムはそういう長年待っていたファンの気持ちを十分満足させてくれる素敵なアルバムだ。なんだろう砂漠みたいな荒涼とした場所から気づけばキラキラ星がまたたく宇宙に来ちゃってた、みたいな。そんなイメージのアルバム。癒されるわー。

youtu.be

3位.Lost Frog Productions 『HYPERFLIP OVERTURE』
ちょい前にも記事にしたエモエモなアルバム。とことんサブカルに寄り添った、というか魔人ブウみたく吸収しまくった上で原型が分からなくなるほどベタベタにコラージュした作品。まあすげえです。

HYPERFLIP OVERTURE | Various Artists | Lost Frog Productions (bandcamp.com)

 

4位.NewJeans
アルバムが、曲が、グループが、ダンスが、メンバーが、何から話せばいいんだろうか、この人たちは。とにかく私の中で今年一番「かっこかわいい」人たちはNewJeansで、耳も目も福福でした。

youtu.be

5位.坂本龍一
アルバム『12』を出してすぐでしたね。日本の音楽においても、映画界の音楽においても、その他色んな場所で多大な貢献をした方です。あなたの音楽をありがとうございました。

youtu.be

今年の記憶(印象的な出来事とかハマったものとか)

・U-NEXT
The Last of Us』を観るために加入したらめちゃくちゃハマった動画配信サービス。作品の数が尋常じゃ無いほど多いので、他のサブスクより料金は割高だけど、ぜんぜん損した気分にならないんだよね。漫画も読めるし、無料の雑誌も結構あるし、もっと早く入れば良かったなあ。いやーにしても、ドラマ観まくったわー。

 

・コロナに罹った
6月に初めてコロナに罹患し、人生初の39度の体温を記録。咳も辛かったし、仕事は一週間休みになった。その間ティアキンで遊んだり、クトゥルフ映画観たりしてたんだけどね。コロナが収束したと言われる年になるんだから私らしいというか何というか。

 

・映画館
毎週のように映画館に行って映画を観てた。一日2本観ることもあったし、リピートすることもあったりで、家と職場以外だと一番いる時間が長かった場所だと思う。映画館は楽しいね。

・宇宙開発関連のニュース
結構前から宇宙開発は好きな話題なんだけど、今年も毎日ニュースを追いかけて色々楽しかった。

 

・note
夏くらいからたくさん使うようになったサイト。映画の感想とか、本の感想とか書いて、誰かと交流するのは発見も多く、刺激的でもあり、のんびりした空気感もあってと気質に合ってたなと思う。