『Kaguya Planet vol.1 気候危機』

SFに関連する情報を発信するWEBメディアVG+から新たに創刊されたSFの雑誌。記念すべきNo.1では「気候危機」について特集している。収録されている短編は3つと大手の雑誌に比べると大分少ない、もとい絞った作品数となっているが、三作品とも綺麗にまとまっている上、気候問題に対して作者それぞれのアプローチを行っており好感が持てた。
化野夕陽「春の魚」は、海の情景描写が実に良く、女性の儚げな存在感と少年の若々しい語り口が魅力。ボーイミーツガールと時間SFの組み合わせは日本SFでよく見られる題材だが、そこに家族の喪失感が加味されることで、マイルドかつエモーショナルな短編に仕上がっている。
津久井五月「われらアルカディアにありき」は三作の中で特に好きな短編。バイオテクノロジーと経済支配とテロとヒツジと、いろいろ要素を詰め込んでますがほぼ男の独り語りに留めて進行させているため読みやすい。展開の少なさはやや気になるが、その分ラストがより”効く”ようになっている。
エラ・メンズィーズ「雨から離れて」は母と子の対話を通して海洋汚染と父親の死を絡めた語りがドラマチック。ただ痛みの先にあるものをもっと何かしら示してほしかったな、とも思う。
他、ゲーム『Rise of Ronin』のレビューや、映画『ペナルティループ』公開に合わせて監督の荒木伸二へ行ったインタビューが掲載されていたりとコンパクトにSFの情報をまとめている。
一回目の特集からわかるように、何らかの問題意識を持って読者に開けた未来を提示する、という試みがあるようだ。なんにせよSFの情報誌が増えるのは喜ばしいことなのでこれからも応援していきたい。